登場人物   祐介・・・男の子。19くらい。妹がいる。父、母、自分、妹の四人暮らし。

         晴美・・・女の子。19くらい。

設定      幼馴染の祐介と晴美。昔から妹と三人でよく遊んでいた。よくお泊りもしてた。一ヶ月ほど前、祐介と晴美は付き合い始めた。そして今日は久々に晴美が泊まりに来た。妹の部屋で三人でトランプをしようとしている。最初に祐介が風呂に入り、次に晴美が風呂に入った。そして今は妹が入っている。妹が風呂から出てくるのを待つ・・・。



「ここ、おいで。」 
 祐介が自分のひざの上を指差すと晴美はちょこちょことやってきた。
風呂上りのせいか頬は赤く上気し、まだ湯気が上がっている。
「よっ。」
 晴美は後ろ向きに祐介のひざの上に座ろうとしている。祐介は晴美のわきの下に手を入れると軽々と持ち上げて自分のひざの上に座らせた。
「えへへ、ありがと。」
 後ろを振り向いた晴美の瞳と真正面からぶつかる。そのくりくりとした大きな瞳を見ると、吸い込まれていってしまいそうだ。目線を少し下げると今度はほんのりと赤く染まったうなじにぶつかる。
「ん?どうしたの祐介。」
「え?ああ、なんでもないよ」
 まさか湯上り姿に見とれていたとはいえない。
「お前、髪乾かしてから出ないと風邪引くぞ。」
 だから自然と話をそらしてしまう。
「大丈夫だよ。このへや暖かいし。」
「そういう問題じゃないだろ。お前髪長いんだからぬれたままで寝たら朝の手入れとか大変だろう。」
「それはそうだけど・・・。だって、祐介が好きだと思ったんだもん、お風呂上りの姿の女の子。」
「へ?」
「さっきも私のお風呂上りの姿じっと見てたから絶対そうだって思ったんだけど違うの?」
 おもいっきりばれていた。
「そんなこと・・・。」
「ないの?」
 瞬間的に突っ込みを入れられる。
「ねぇ、私のお風呂上りの姿見ても何も感じないの?」
 顔を前に戻してぐっと体重を預けてくる。
 ポカポカとした体。ピンク色のパジャマ。ほんのりと赤く染まった耳たぶ。シャンプーの香り。体に感じる圧力。それを通して伝わってくる心臓の鼓動。かすかな息遣い。
 そんなものを意識した途端、急に胸が締め付けられるような、しいていえばキュンとしたというか、そんな感覚に襲われた。祐介はゆっくりと自分の腕を晴美にまきつけて後ろから抱きかかえるような形をとった。
「あ・・・。」
 晴美は小さく声を上げたが逃げようとはしない。
「祐介・・・。」
 小さく名前を呼ばれる。
「なんだ。」
 顔を首筋に近づけ耳元でささやく。
「名前、呼んで。」
「・・・晴美。」
 一瞬晴美の体が小さくはねる。心臓の鼓動が速くなっている。
「もっとギュッてして。」
 祐介は無言のまま腕に力を込めた。二人の体がより密着する。するとそこから電気が流れ出るように体中にピリピリとしたものが駆け巡った。それは晴美も同じようで恍惚とした表情で目を閉じている。目じりにはうっすらと涙が浮かんでいた。
「・・・気持ちいいな。」
「うん・・・。」
 晴美の体からはどんどん力が抜けていき呼吸の速度が上がっていく。その息遣いを聞いて祐介は自然な動きで身近にあるものを軽く くわえた。
「あ、いや。」
「え、あ、わるい。」
 すぐさま唇を離す。無意識での行動とはいえ耳たぶをくわえたのを「いや」と言われて祐介は少なからず罪悪感に襲われた。ただ、今ここで晴美に嫌われるのが何より怖かった。
「ごめん。」
 緩めて、ほどこうとした手を晴美の手があわててとめる。
「違う、そうじゃないの。ちょっとびっくりしただけで。突然だったから。嫌なんじゃないの。だからやめないで。もっとギュッてしてて。」
 振り向いた晴美の瞳と真正面からぶつかる。でも今度のは不安と、恐れと、悦びと、何かを訴えかけているような感じが滲み出していた。
 見つめ合って数秒がすぎた。でもそれは今までに味わったことがないほど長い長い時間のようで、終わらないのではないかとも思えるほどだった。
 不意に晴美の瞳に強い決心の色が浮かんだ。それと同時に大きなくりくりとした2つの月が消えてしまう。そして唇に何か温かいものが触れた。瞬間的には何が起こったのかわからなかった。たださっきまで見えていた晴美の顔がとても近くにあって、唇を何かにふさがれているだけだった。しかしそれがキスだと気づいたときには、もう唇にはやわらかい感触しか残っていなかった。
 再び月が2つ現れた。そこには強い光はもうなく小さなかげが差している。その不安そうな顔が、全身から出ているオーラが祐介の理性を少しずつ崩壊させていった。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
 祐介は晴美の頬に手を添えるとそのまま頭を自分の胸に引き寄せた。晴美はそのまま重力や引力に逆らうことなく胸元へ顔をうずめてくる。しばらくそのまま抱きしめあっていた。互いに口を開くこともせずただ抱き合っていた。女の子特有の甘い香りが祐介の鼻をくすぐる。初めて抱きしめた女の子の体は柔らかくて、華奢で、壊れてしまいそうだった。
 
 晴美のほうも初めて抱かれる男の子の体にドキドキしていた。思っていたよりもたくましい胸板に顔をうずめ大きな腕に抱きしめられている。そしてその腕の締め付けの強さから祐介の気持ちが手に取るようにわかるのだ。
『好き』
そんな気持ちがいっぱい。
『嫌われたくない』
そんな気持ちもいっぱい。
『どうすればいいのかわからない』
これが一番。
 ただ抱きしめてくれているのが、今がとても幸せなのに。祐介は晴美の気持ちをうまく汲み取れないでいる。だから晴美は額を少し祐介の胸板に甘えるようにこすり付けた。
『このままでいて』
 そんな気持ちがうまく伝わったのか祐介の腕から緊張が少しとれる。そして少し余裕が出てきたのか長くしめった髪を手くしで梳(と)き始めた。
「はぁ。」
 思わず息を吐いてしまう。髪の毛の一本一本が先のほうまで手足のように敏感になっているようで髪を梳(す)かれる度に体中に小さな電気が流れ始めた。そのあまりの気持ちのよさにさっきのように額をこすりつける。すると祐介も晴美の頭の動きに合わせて髪をいじり始めた。

 晴美が胸元へおでこをこすりつけてくる。それはじゃれあう子猫のようで見ているだけで体中から力が抜けていきそうになる。
「くぅーん。ゴロゴロ。」
時々のどの奥で鳴らしたような声が祐介の耳に届く。そんなときに胸の辺りが締め付けられるのだ。いや、甘い痺れが来るといったほうが正しいかもしれない。それはそのまま体中を駆け巡って理性の壁をどんどん壊していく。
 ふと、もう一度晴美の頬に触れてみた。晴美が顔を上げる。瞳が合う。今度は二人の瞳に行き違いはなかった。まぶたがゆっくりと閉じていく。目の焦点が一箇所に集まっていく。互いの顔に吐息がかかる。そして唇が合わさった。ただ唇が触れ合うだけのキス。頭の中がぐるぐる回っている。顔が火が出そうに熱い。でも気持ちいい。頭のどこかで冷静な自分が「これがキスか」と妙にうなずいている気がする。
 やがて唇が離れた。目を開くと晴美の顔も真っ赤に染まっている。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
 言う言葉が見つからない。言葉は浮かぶがどれも場違いな感じがして口に出すのを無意識に封じてしまう。
「あ・・・その・・なんだ。」
 やばい。言う言葉もないのに話し始めてしまった。晴美は瞳を伏せてはいるが心は祐介の次の言葉を待っているようだ。
「えと・・・その・・・つまり。」
 晴美の体に悪い緊張が戻っていく。
「その・・・気持ちいいなキスって。」
「・・・・・・。」
 とりあえず思ったことを口にしておく。すると晴美は目を大きく開いて祐介の顔を見つめた。そして
「・・・ぷ・・・ふ・・・あはははは。」
笑い始めた。
「お、おい。笑うことないだろ。」
「だ、だって・・・はは・・・まじめな顔して何言うのかって思ったら。・・・ぷ、あはは。」
「笑うなって」
「ご、ごめん・・・ははは。」
「あ、あー、もう。」

 『気持ち言いなキスって』
 祐介の口から出た言葉。まじめな顔をしていたからなにを言われるのかってドキドキしていたのに。祐介はそう言ってきた。多分晴美の緊張をほぐそうとかではないだろう。
 祐介の次の言葉を少し期待していてそれでいて少し怖かった。「やっぱりやめよう」と言われるのが怖かった。そのまま抱きしめたり、押し倒したりするのかとちょっと期待していた。でも祐介はやはりと言うか所詮祐介だった。祐介は今、晴美から顔をそらせている。少し笑いすぎてしまったようだ。考えてみれば祐介も必死なはずなのだから笑ったりしたらいけなかったのだろう。
 晴美は体をしっかりと起こすと祐介の顔の正面に回った。その途端、祐介も顔を反対側に向ける。
「ごめん祐介。」
 まだ顔を戻そうとしない。
「祐介も必死だったのに笑ったりして。」
「・・・・・・。」
 返事がない。
「・・・怒ってる?」
「・・・・・・。」
 祐介の肩が震えている。
「・・・笑ってる。」
 晴美の言葉と同時に祐介は大きな声で笑い始めた。思わず呆然とする。
「あはは、はは。」
 そんな祐介を見て晴美はだんだん事態がよみこめてきた。
「だましたな!」
「わるいわるい。」
 ぜんぜん反省していない。
「でも、おあいこだろ。」
「うっ、まあね。」
 そういわれると引き下がるしかない。
「こんなに簡単に引っかかるなんて、お前も案外ばかだな。」
「なによ。ほんとに怒ったんじゃないかってすごい怖かったんだから。嫌われちゃったんじゃないかって。」
「バーカ。あのくらいで怒ったりなんてしねぇよ。まあ、少しは憎らしかったけど。」
「やっぱり思ったんじゃない。」
「でもすねてから急にビクビクしてる晴美見てたらそんなの忘れたよ。なんか・・・いや、やっぱいい。」
「え、なによ。」
 祐介は何かを言いよどんだかのように突然言葉を切った。
「何言おうとしたの。」
「なんでもない。」
 祐介の顔がさらに赤くなっていく。
「言ってよ。気になる。」
「別にいいって。」
「・・・泣くよ。」
 脅してみる。
「泣けよ。」
 普通に返された。
「・・・・・・。」
 祐介の態度が照れからくるものだとはわかっていても、なんだか腹立たしいというか苦しいというか、そんな気がしてくる。
「・・・・・・。」
 晴美は無言のまま視線を下げる。そして泣き始めた。
「・・・うっ・・・くっ・・・。」
 まさか本当に泣かれるとは思っていなかったのだろう。触れている祐介の体が緊張する。
「おい、ほんとに泣くなよ。」
「だって、泣けって。私のこと嫌いなんでしょう。」
「そんなんじゃない。」
「だって話してくれないし。」
 下を向いて嗚咽を漏らす。がんばって涙を流そうとしてみると本当に晴美の目には涙がたまってきた。
「おい、ごめん。本当にそんなんじゃないんだ。」
「じゃあなんて言おうとしたの。」
「それは・・・。」
「やっぱり言いたくないんだ。言えないようなことなんだ。」
 晴美は女優への道を考え始めていた。祐介は顔を真っ赤にしたままオロオロとしている。
「わかった、言うよ。でも絶対笑うなよ。」
「うん、笑わない。」
 祐介は晴美と目を合わそうとはしなかった。
「あのな・・・その・・・そんな晴美が、なんかすごく可愛いなって思ったから・・・。笑うなよ。こんなこと言うのすげぇ恥ずかしいんだからな。」
 晴美はすっと視線を下げた。肩が震えている。
「だから嫌だったんだよ。笑われるのなんてわかってたんだから。」
 晴美の顔から雫が落ちた。その数が少しずつ増えていく。
「晴美?」
 晴美は祐介の胸に飛び込んだ。その勢いで二人して倒れこむ。祐介はただ唖然として晴美を見つめていた。
 
 晴美は急に涙が止まらなくなっていた。ただ祐介が何を言おうとしていたのか聞き出したかっただけなのに。祐介の言葉を聞いた途端に心臓を握られたような気がした。流そうとしていた涙が自然に溢れてくる。胸がキューッとしてドキドキが止まらない。可愛いなんて今までにいわれたことはいっぱいあった。近所のおばちゃんにも。友達の女の子にも。振ってしまった男の子にも。でもどれも今回のとは違った。スーッと通り過ぎてはくれなかった。こんなにドキドキはしなかった。好きな人から言われる言葉がこんなに苦しくて気持ちのいいものだとは知らなかった。そして、このとき晴美は本当に祐介が好きなんだと感じた。
「どうしたんだ。俺、またお前を泣かせるようなこと言ったか。」
 はっとして慌て始めた祐介が心配そうな瞳で晴美を覗き込んできた。
「ううん、そんなことない。そんなことないよ。」
 何とか声を絞り出す。
「でもお前泣いてるじゃないか。」
「違うの。これは泣いてるけど泣いてるんじゃないの。」
「なんだよそれ。わかんねぇ。」
「わかって。」
 晴美が祐介のパジャマの胸元を握る手に力を込める。
「好きだからなの。これは祐介が好きだからなの。なんか心臓がキューッてして涙が止まらないの。」
「え・・・。」
 その言葉を聞いた途端祐介の胸にも電気が流れ出す。
「わかんない?それともこんなに苦しいのって女の子だけなの。」
「・・・そんなことない。」
 祐介の顔を見ると祐介の目にも涙がたまり始めていた。
「俺も、なんかすげぇ苦しい。心臓が苦しい。だけど。」
 わざとに台詞を切る。
「なんかそれと一緒に晴美が可愛くてたまらなくなる。すごい抱きしめたくなる。」
「だったら抱きしめてよ。そんなにためらわないで。私だって祐介のこと好きなんだよ。嫌ったりなんかしないよ。」
「晴美・・・。」
 祐介は晴美の背中に腕を回した。そしてしっかりと抱きしめる。心臓の音が・・・晴美の心臓のドキドキが伝わってくる。
「ごめん。」
「何で謝るの。」
「なんでも。ごめん。」
 少し呼吸を整える。
「俺、自分のことしか考えてなかった。晴美に嫌われたらどうしようってそればっかり考えてた。」
「ううん。私だってそうだよ。祐介に嫌われたくないってことだけ考えてた。」
「そっか・・・。ばかだな、俺たち。」
「うん。ばかだよ、私たち。」
 お互いに少し笑う。
「晴美・・・。」
「何。」
「やわらかい。」
「ばか。」
「ばかでもいい。女の子ってこんなに柔らかいんだな。」
「そう。・・・私も少しびっくりした。」
「何が。」
「祐介も男の子なんだなって。」
「あたりまえだろ。」
「うん、そうなんだけど。思ってたよりも体、がっしりしてる。」
「そうか。ひょろひょろだぞ、俺なんて。」
「そんなことないよ。すごいがっしりしてる。」
「なんか恥ずかしいな。そういうこと言われると。」
「言ってるこっちも恥ずかしい。」
「じゃあ言うなよ。」
「そうだね。」
 少し心地のいい間があく。
「こんなときって普通どうするんだろうね。」
「さあな。」
「じゃあ、祐介だったらどうする。」
 晴美はじっと祐介を見つめる。
「俺だったら、キスする。」
 祐介がじっと晴美を見つめ返す。
「私祐介の考えること好きだよ。」
「そうか。それはよかった。」
 あたりの物音が消える。時計の音さえ聞こえなくなる。体の中で何かが燃え始める。頭の中が空っぽになっていく。五感が研ぎ澄まされる。風景が消える。色が消える。触覚が特に鋭くなっていく。空気の振動で相手の位置がわかる。触れた指先に電気が走る。ゆっくりと手を伸ばす。目の前の空気が何かに押し出されていく。形のない物体が近づいてくる。吐息がかかる。かすかに視力が戻る。人間の顔がある。目は閉じている。頬が赤く上気している。呼吸が乱れている。唇がきつく結ばれている。視力が再び消える。瞼が自然と落ちてくる。そして・・・・・・。
 
 あたたかい。
 やわらかい。
 くすぐったい。
 きもちいい。

 好きになるって、すごく怖いけど、すごくいいものかもしれない。
 好きな人がいるって、すばらしいことだと思う。
 愛するって、よくわかんないけど、自分も相手も幸せなことなんだ、って思う。
 抱きしめあうって、なんかなによりもいいことだなって思う。
 近くにぬくもりがあるって、なんかいいな。
 なんて考えてみたり。


あとがき・・・拙い文章ですみません。男女で「こんなんあり得ん」などと思うものがありましょうがこれは僕の世界なので。なんか突然構想が浮かんで書き始めたらどんどん進みました。まあ、とある板スレでHugについて書いてあるのが心に突き刺さったのが原因なんですが。ちなみに書いておきますが実体験などではないのであしからず。