「なんだよそれ」
もう何度反芻したか分からない。
そんなことより杏の言葉のほうが分からない。
「好きなの」
好きなのって・・・。好きって好きってことだろ。
でも、やっぱり。
「なんだよそれ」
杏は俺のことが好きだった。
好きでいながら、風子と俺と付き合っていた。
風子の友達で、俺の友達で。
でも、俺のことが好きで。
どんどん分からなくなる。分からないことが増えていく。
勝平とのことは俺をからかいたかっただけだった。
水族館はイルカを見たかっただけだ。
なのに。なのにどうして。
それを額面どおりに受け取れないのだろう。
「ちくしょう」
なんでこんなにややこしいことになっちまったのか。
俺はただ風子と居たかっただけなのに。
杏が憎い。
風子との関係にひびをいれ、一方的に「好き」なんて言った杏が憎い。
憎いけど。
憎めない。
友達だから。
杏は大切な友達の一人だった。
「・・・きょう・・・」
でももう友達には戻れないかもしれない。
俺の答えは「NO」でしかなかった。
風子を好きなことも杏が友達なことも変わることはない。
だから「NO」だった。
どんな顔して会えばいいんだ。
いっそ笑って冗談だと言ってくれればいい。
「冗談よ。なにマジになってんの」
でも。
あの様子が演技だなんて思えなかった。


「冗談よ、なにマジになってんの」
「・・・・・・」
「・・・ごめん」
キィキィとイルカの声が響く。
終了一日前ということもあってか人の数は前回よりも多い気がした。
水族館、特設会場の裏側。
そこが待ち合わせの場所だった。
パシャパシャと水のはじける音と人々の歓声が聞こえる。
太陽の熱さは会場の作り出す影が遮ってくれるがその湿度は何倍も高い。
じめじめと嫌な暑さ。汗が肌にまとわりつく。
「手紙読んでくれたんだ」
「昨日委員長がすごい顔しながら渡してきたからな」
「あはは、そりゃそうだわ」
「ラブレターかと思われたかもしれないぞ」
「それよりは遺書でしょ」
「そっちだな」
一昨日と同じくセミの音は続いている。
さてどうするかと思った。
実際いろいろ考えて何もまとまらずにこの場に来てしまったのだ。
「ごめん」
風が声を運んできた。
杏の方から流れてくる風にそのかすかな声はさらわれたようだ。
「ごめん」
今度ははっきりと聞こえた。
今日はあのときの震える少女はいない。
「・・・・・・」
なんて言えばいいんだろう。
分からない。
困っているのは確かだしそれは杏も分かってる。
だからごめん。
・・・あれ?
ごめんっていったいなんだろう。
何に対してのごめんなんだろう。
「いろいろ困らせちゃってるよねわあたし」
いろいろ困らせていることについてのごめん。
そんなことは分かっているが、どうもしっくりとこない。
「別に」
「あのな」
そんなんじゃないんだと思った。
思ったら行動。
受身だけでは何もならない。
「俺は風子のことが好きだから杏の気持ちには応えられない。」
シャワシャワシャワパシャン。
「分かってるわよ」
バシャバシャキュイー。
分かってたみたいだ。
「じゃあなんであんなこと言ったんだよ」
頭の中がぷちパニック状態。
「ほんとは言うつもりなんてなかったんだけどね」
杏はクルリと背を向けると軽く足を踏み出した。
少しずつ遠くなる杏の背を追う。
「朋也が風子と付き合いだしたって聞いた時にすっぱりあきらめたはずなのにね」
ワァーと歓声が上がった。
杏も会場へと首を向ける。
「うれしかった」
そっと右手で会場の壁をなでた。
「まさか一緒に来てくれるなんて思わなかった」
『ねえ朋也。水族館行かない?』
「うれしかったけど、寂しかった。ちょっと怒ったりもした」
こっちの「は?」といった表情を察したのか、壁を見つめていた瞳がこちらに向けられた。
分からないでしょうと言わんばかりの二つの目。
「なんでだよ」
「・・・朋也にとって私は友達なんだったって分かったから」
軽く目を細めて、ちょっと寂しそうな顔をして。
哀しそうな笑顔でそう言って、その瞬間にセミの声も会場の音も何もかもなくなって。
そして杏の頬が小刻みに震えて。
顔を背けられた。
「もう信じられないわよ。彼女いるのに女の子と二人っきりで水族館なんて行く?
 まったく何考えてんだって思ったり、あたしってやっぱそうとしか見られてないんだって思ったり。
 でも一緒に行けるのうれしかったり。朋也と一緒に・・・」
内容は聞き取れなかった。
向こうを向いた今日の声はかすかに震え、音質が鈍り、勢いがつき、明るくなり、震えが激しくなり、やがて途切れた。
嗚咽を漏らすまいとする嗚咽が聞こえてくる。
はっきり言ってなんで泣いているか分からない。
こっちが責めているみたいで少し嫌な気分がした。
嗚咽の中に周囲の音は蘇っていた。
動けない。動きようがない。
何をすればいいのか、なんて声をかければいいのか。
分からないまま時が流れていく。
細く震える杏の背中をただ見つめていた。
やがて杏は頭を2、3度左右に振るとバッグから取り出したタオルで顔をぬぐい、こちらに振り向いた。
「暑いね・・・。だからごめん、別に悪気もないし付き合ってほしいっていうんでもないから。
 ただ困らせちゃったのはごめん。あたしもあんたたちのこと応援してるよ」
そんな笑顔の杏に「ありがとう」とか言って会話を終えることはできない俺だった。
もうおしまいとばかりに笑顔を振りまく杏が凍った。
たった一言で凍りついた。
「じゃあもう好きじゃないのか」
単なる疑問だった。どういう意図もなかった。
でも、はっきりさせておきたい。
自分勝手かもしれないけどはっきりさせておきたい。
「あ、あはは、何言ってんの。もうこの話はおしまい」
「まだだよ」
氷が崩れる。
「俺、杏とは友達でいたいって思ってる。だから今こんな風にしてちゃだめだと思うんだ。
 そういうこと抱えるより、しっかり解決したい」
杏は肩でため息をついて、今までで一番真面目な顔を向けた。
そして。
「好き」
と言った。
「好きだけど、あきらめる」
と言った。
「あきらめるから友達でいよう」
と言った。
「大丈夫か」
と尋ねた。
「大丈夫。大丈夫?」
と返された。
「たぶん」
と答えた。
「ごめん」
と言われた。
「友達だろ」
と拒絶した。
「そうだね」
と笑った。
どうみても泣いていた。


「何度見てもすごいよな」
「そうね」
友達の杏とイルカショーを見た帰り道。
暑くてしかたがない俺と杏とバニラアイス。
みんな汗をかいている。
「明日風子と?」
「そうだよ、ってまだあのまんまだ」
「私も一緒に言おうか?」
「いや、俺が夜電話するよ」
「そっか」
ペロリとコーンをつたうアイスを舐めとる。
「何て言えばいいんだろうな」
「デートなんて思ってなかったって言えば」
「それ完全な言い訳だな」
「だって言い訳でしょう」
「・・・器用だな」
「まあね」
杏のコーンにはアイスが垂れていなかった。
「あー、急に不安になってきた」
「は?今自分ひとりでなんとかするって言ったとこじゃない」
「なんとかするけどな」
はぁとため息。
「ねぇ」
「ん?」
「風子のどこが好きなの」
「は?」
「教えて」
・・・かなり嫌だ。
「秘密」
「えー」
「うるせえ、言えるか!」
「いいじゃん。ほら、吐いちまいな」
「言えねえ」
「あーあ、かわいそう。実は全然思うところがないんだ」
「じゃあ杏はどうなんだよ」
「・・・あたしか」
「俺なんかのどこがいいんだ。それ言ったら教えてやるよ」
勢いと暑さによるテンションの崩壊がもたらしたものは、なんとも重くて軽い拷問だった。
「ん〜、じゃあ教えてあげよう」
「いや、いいよ」
「風子と一緒」
答え・・・やがった?
「風子と?」
「うん、多分一緒だと思う」
「そんなのありか」
「へへーん」
そういえばなんで風子は俺と付き合ってくれてるんだろう。
俺は風子のことが好き。
でも、今までそれしか考えていなかった。
風子は俺のどこがよかったんだろう。
「ほら言ったわよ」
「反則負け」
「あたしが法律」
「じゃあ俺が憲法」
「武力に訴えるわよ」
アイスは胃の中心にしっかりと収まった。
「実は言えない」
「・・・」
「その目をやめろ。言えないっていうのは特定できないってことだ」
「特定できない?」
「見た目とか性格とか、そういうもの一つ一つなんて言ってられるか。俺は風子が好きなんだ」
「うわぁ、熱」
「言うな。恥ずかしくて死にそうだ」
でも、そういうことだ。
「まあ」
杏は手に持ったタオルを顔に押し付けた。
そしてモゴモゴと言った。
「わかるけどね」

受話器の前に来て二時間が過ぎようとしている。
手を伸ばしたとたんマンションを買わないかという電話がかかってきたときには心臓が飛び出るかと思った。
受話器を持ち上げ、もう完全に記憶したダイヤルを押す。
その最後のボタンが重い。
その重みと対峙している間に受話器を持つ手が力を無くすのだ。
4日ぶりに風子と話す。
今まででは考えられなかった。
まさかあの喜びがこんな鬱圧に変わるなんて。
ただ謝って済むのかは分からない。
風子が俺といる理由をいうのを気にしてしまった今、風子がこれで俺から離れていってしまわないかと怖い。
その不安がボタンを重くする。
どこかの家から電子音が聞こえた。
時計に目をやる。
・・・そろそろタイムリミット。
電話をかけるには三途の川を渡っている時刻。
覚悟を決めた。
結局最後の重さに打ち勝ったのが時間だというのが悔しかった。
「はい風子です」
「!?」
コール音が一回を終えずに風子の声が飛び出す。
マンションの比でなく心臓が跳ねた。
あまりの衝撃に声も出ない。
受話器からの追撃がない。
だから先程の声は幻だったのかとさえ思えた。
そんな瞬間。
「朋也さんですか?」
その声は紛れもなく風子だった。
でも嬉しい。
悩んで苦しくて怖くて不安でつぶれそうだったけれど。
それでも風子の声を聞くことが嬉しかった。
「おう、久しぶり」
そんなことしか言えない自分が情けない。
「はい、久しぶりです」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
・・・行き当たりばったりすぎだ。
どうしよう。
何て言えばいいのか分からない。
「ごめん」
「・・・・・・」
謝ってみた。
「その、杏のことは全然そういうふうに思ってたんじゃなくて。ほら、友達だろ俺達」
「・・・・・・」
結局言い訳をしてみた。
「えっと・・・」
自分だめだ。もうだめだ。
言葉が浮かばない。
言い訳すら浮かばない。
周りを見回すが解決のヒントなどあろうはずもない。
「その・・・」
「明日は」
風子の声が聞こえた。
「明日は水族館に行ってもらえますか?」
風子のそんな声が聞こえた。
「あ、ああ」
「よかったです。・・・それでは明日」
「あ、おう」
「おやすみなさい」
ツーツーツー。
流れるような時間。
耳元でうるさい音に気付き受話器を戻す。
まだボーっとしている。
靄がかかった頭で唯一捕らえられたのは、明日風子と水族館にいけるのだということ。
徐々に身にしみてきた。
無感動であった。
そこには喜びなどなく、あるのはおぼろげで不安定な安心感だけだった。

・・・分かりやすい。
イルカショーの最終日の水族館。
日曜日。
人が多いことは疑いようもなくまた事実。
こんなところで待ち合わせをして相手が簡単に見つかるわけがない。
厳密に場所を指定しても難しいその場で、ただ「水族館で」としか言っていなかった二人が瞬間的に出会える確率はサイコロで連続3回同じ目を出すのよりも低い。
それなのに。
「・・・」
人の群れの中に見たことのある帽子が1つ。
まるで集中線でも描き加えられたかのようにその帽子へと目がいった。
人の波にもまれて右往左往するヒトデ。
ショルダーバッグを提げたヒトデは遠目にも真っ赤に茹で上がっているのが分かる。
ノースリーブから伸びたか細く白い腕は、天然のオーブンにとってはいい獲物だ。
人目につきやすい日陰なんて存在しなかった。
「暑いな」
真っ直ぐに。人をかき分け一直線にそこへと向かった。
「はい、風子ちかちかしてます」
「まず日陰いこうぜ」
「異議なし!」
日陰まで来ると風子はバッグからペットボトルを取り出し、中身を口に含んだ。そしてタオルで汗を拭う。
「じゃあ俺チケット買ってくるから風子はここにいろよ」
コクンと頷いたのを確認し、七日前よりもさらに長い大蛇の尾へと乗り込む。
目の前には老夫婦。
この暑さで汗一つかかず涼やかに列に納まっていた。
売り場までにイルカショーの看板があるのを発見。
前回は気が付かなかった。
こんなに目立つところにあれば気付かないはずもなかろうに。
なぜだろう。
思い返す。
浮かんだのは杏の顔。
そうか、あの時は杏と並んでいたからずっと話していたのだ。
楽しく、周りが見えないくらい夢中になって話し込んでいたのだ。
何を?
忘れた。
忘れる程度の内容が視力を奪った。
やはり杏は最高の友達なんだろう。
「あれですか!?」
突如横で黄金色の声があがった。
驚いて目をやると看板に釘付けの風子。
「ん〜とっても楽しそうです」
笑顔の風子。
視線を感じたのか顔を上げた風子と瞳がぶつかる。
一瞬の空虚。
すべての凝縮によりパンクした間。
「もう大丈夫か」
「はい、一緒に並びましょう」
すべてが氷解した。
解決はしていないけど、それでも、安心が心に定住した。

そこで、止まった。
その見えない壁の手前で風子の足が止まった。
「どうした?」
「・・・・・・」
「さっきのタツノオトシゴもっと見るか?」
「・・・・・・」
頭の中で今までのことを再生する。
ひとつひとつの水槽を見てははしゃぎまわる風子に悪戯はすれども、そこまで風子の機嫌を損ねるようなことはしていない・・・はず。
どうしたんだいったい何があったんだ俺はなにかだめなことしたかどうすればい
「気持ち悪いですか」
いんだ。
「・・・・・・」
風子の哀しげな顔があった。
その表情と。
「気持ち悪いですか」
言葉。
「何が」
風子はただ腕を真っ直ぐ伸ばした。
突き出した人差し指の先には次のコーナーを示す看板。
それは。
「朋也さんには嫌ってほしくないです」
「なんで」
わからない。
「なんで突然そんなこと言うんだよ」
なんで。
風子は少し顔を落として。
そして俺の脳を揺さぶった。
「杏さんが言ってました」
脳内をすごい速さで写真が飛び交う。
狙いすまされた画像だけが鮮明に残る。
「朋也さんと一緒に水族館に行ったに壁一面のヒトデが気持ち悪いって一緒に笑ったって」
あれは、そうだ。
風子が見たら喜ぶだろうって。
「風子、朋也さんもすっかりヒトデの魅力にまいってるんだとばかり思ってました。だからどうしようって思ってしまいました」
後ろから来た家族連れのために路を譲る。
「風子、朋也さんのことが一番だから。朋也さんが気持ち悪いっていうなら、すごく嫌ならヒトデと別れないといけません。
それは嫌です。風子、そこはかとなく我侭です」
「風子は」
もう聞かずにいられなかった。
「なんでそんなに俺のことを」
でもうまく言葉にできない。
風子も続きを待っている。
「なんでそんなに俺のことを・・・想ってくれるんだ」
「・・・そうですか?」
「そうだよ。なんでそんなに。俺のことを好きになってくれたんだ」
なんで俺なんかのことを。
脇を小さな子供達が通り抜けて行った。
男の子と女の子がしっかりと手を繋いで行ったその後ろを大人が4人続いていく。
「うわーおほしさま」
「うん、きれー」
「じゃあ朋也さんはなんで風子と一緒に居てくれるんですか」
「質問に質問で返すな」
「でもなんか変」
「きもいー」
「好きだからです。って恥ずかしすぎます」
「だからなんで好きでいてくれるんだよ」
「つぎー」
「うん」
「それ嫌です。いてくれるとか言わないでください」
「風子だって言ったじゃないか」
「売られた喧嘩は買うってやつです」
「たぶんそれ売り言葉に買い言葉な」
ふと通りすがる人と目線があった。
あちらが慌てて視線をそらすのを見て今の状況を把握する。
・・・この上なく目立ってる。
たしかに通りの途中で言い争いをする男女が目立たぬはずもない。
ちょっとだけ、魚たちと意思疎通。
「次いこう」
「あ、待ってください」
次のコーナーを示す看板の隣をそそくさと通過する。
後を追ってきた風子がピキリと固まった。
視界を埋め尽くすヒトデたち。
うにょうにょと動いているものや星のように固まっているもの。
色とりどり形様々なその地獄絵図もとい楽園。
こちらのヒトデはわなわなと震え始めると、ゆっくりとしたスローモーションをかけたようなスキップで水槽へと近づいて行く。
「あっちでは触れるからな」
「触れるんですか!」
「ああ、ほら」
脊髄反射で反応を示す風子は、もうその場へと行っていた。
この水族館では一部の害のないヒトデは実際に触れられるようになっている。
そこはふれあい広場と題され、ヒトデ以外にもカメやイソギンチャク、カイ、はてはペンギンなどと触れ合うことができる。
カメやペンギンに群がる人は多いが他は空いていた。
そこで存分にヒトデを手に抱き上げるヒトデ少女。
見た目の幼さとその帽子のおかげか全くその場と違和感がない。
頬に当てひどく変な顔をしたりとひっきりなしに動いていた。
「ヒトデです。こんなにうにょうにょしているとは思いませんでした」
風子の隣へ腰をかがめると風子の熱気がそれだけで伝わってくる。
「いや、いいよ」
「いえどうぞ。朋也さんも感じてください」
嫌々ながら手にヒトデを受け取る。
そのぐにょぐにょとしてべっちょりとした手触りは好きになれそうになかった。
「どうですか!」
瞳の中のヒトデまでもが輝く少女のさきほどのセリフが頭に浮かぶ。
それを想うと嫌いだとも言えない・・・。
「朋也さん?」
「・・・嫌いじゃない」
ぽんぽこたぬきさんと言う勇気はなかった。

「・・・」
「・・・」
二人が固まった。
話の微妙なズレが一致するというその瞬間は、概してこんな気分になるものなのだろうか。
なんでそんなこと、と考えたのは両人共に同じだろう。
一方は、なぜヒトデ。
一方は、なぜ二人で水族館。
なんでそんなこと。そんな程度のこと。
イルカにはしゃいだ帰り道。
最後のショーだったということもあってか、前回よりもサービスが豊富だった。
観客の中から数人が舞台上に出てイルカに餌をあげたり、キャッチボールの際のボールが二つに増えたり。
風子は元気よく手を挙げたものの餌をあげる役にはなれなかった。
そこだけが悔しかったらしい風子だがヒトデのぬいぐるみを抱いてご満悦のはずだった。
「ごめんな」
この一言から繋がった糸の端は「誤解」だった。
「だってあれだけいたら気持ち悪いって思うだろ」
「杏さんと一緒に遊んだからってなんで怒るんですか」
それは完全な誤解と一致。
思いもよらない部分からのもつれ。
「いや、その・・・」
「激ぷりちーです!」
まぁ。
型が付いたし、良しとしよう。


「智代、頼むぞ」
「ああ、私も感心している。何かに挑戦しようというのは良いことだ。ところで経験はあるのか?」
「足で投げられるくらいだよな!」
「え、う、うん。僕ならそのくらい余裕かな。サッカーやってたし、ははっ」
「それはすごいな。ものすごく心強い。なぁ、みんな」
「うすっ!」
(なあ岡崎。ほんとに智代ちゃんのこと倒せるのか?)
(あたりまえだ。智代といえども女だぞ。お前は女に負けるのか)
(そうだよな。女だしな)
「よし!ためしに力いっぱい春原とキャッチボールしてみろよ」
「うん、そうだな。グローブはあるか?」
「いらないよな、春原!」
「え、さすがにいるっしょ」
「怪我をするぞ」
「女の投げる球なんて素手で十分だってさ」
「ちょ、岡崎!?」
「ほう、甘く見られたものだな。では、いくぞ!」
「待っ、ふべ!」
「あと63発くらい楽勝だってよ!」
「岡ざっ、ふごっ」
「なんでお前がボールを返すんだ」
「球がへぼすぎて投げる気がないそうだぜ!」
「ほう、なめられたものだな。・・・いくぞっ!」
「ぎゃーーーーーーーー!!!!!!!」