「暇だわ。」

 鉄がバイトへ向かった後の部屋でメリルは退屈していた。ハデルはどこかへ出かけてしまったようだ。

「あいつ、ちゃんと羽と頭のヤツしまってるんでしょうね。」

 メリルとハデルは同じときにそれぞれ命を受けて鉄の元へとやってきた。メリルは神に。ハデルは魔王

に。そしてやってきた鉄の元でお互いに出会った。

 今神界と魔界は大きな戦争をしている。そんな中で鉄の血を手に入れることはとても重要なことだ。鉄

の血は二世界の間で『向日葵』と呼ばれている。そしてこの血を制したものこそが世界を制することが出

来る、といわれているのだ。しかし『向日葵』はいつの時代にも人間界に現れているわけではない。いつ

現れるのか、なぜ現れるのかはわからないがたまに出現する。そしてその波動を発見したのが今回は

天界と魔界が同時だった。二人の使者はばったりと鉄の前ではちあわせし、壮絶な戦いが始まる・・・は

ずだった。ところがそのときに異変が起こった。二人の放った光球と電子レンジの電磁波とパソコンの電

磁波が奇妙に混ざり合い激しい光を発した。視界が真っ白になるほどの光を浴びたメデルとハデルはな

ぜか体がどんどん縮んでき、ついに幼児並の体になってしまったのだ。それと同時に力もほとんど失い

今出来るのは翼などを隠して人間に化けることぐらいである。かくしてこの三人の奇妙な生活が始まった。

「はー。憂鬱。」

 メリルの周りにはトランプやあやとりの紐や鉄の本が散乱している。外は昼だというのに真っ暗である

。天気予報では降水確率が70%だといっていた。しかし雲はその重いものをまだ落とさずに大事に抱え

ている。メリルはしいたままになっている布団の上に寝転がった。ハデルが朝なかなか起きずにそのま

まにしていたものだ。

「神様・・・。早く助けに来てください。メリルは待っています。」

 神界に通信する力さえもない今は向こうが異変に気付いてくれるのを待つしかない。しかしすでに三

ヶ月が経っているが未だ連絡はない。

「神様・・・。」

 メリルの目にうっすらと涙が浮かぶ。

神に呼ばれたとき、メリルは天にも昇る心地だった。と、友達に言ったら「ここが天じゃん。」と返され

たのだが。とにかくすぐに神の元へ向かった。神に会えるのは一部のものだけ。一般のものたちは

年に数度だけだ。一般のものであるメリルになぜ声がかかったのかはわからないがそんなことはど

うでも良かった。ただ神に合えることが大切だった。一番上物の衣装を身につけ向かった神殿で謁

見の間に通された。目の前に神がいた。金色の髪。青い瞳。若くして先代の神から神として認められ

たその力が現れているかのような瞳。年はメリルとそれほど変わらないだろう。会うや否や神はこう

いった。「向日葵の回収に行け。」と。

 頭がボーっとしてきた。眠い。昨日はちゃんと寝たはずなのに。外からパラパラという音が聞こえ始め

た。雨だ。だんだんひどくなっていく。しかしそのザーッという音が耳に心地よい。瞼が重い。

 神の一言は衝撃的だった。あの向日葵が今手に入る。これは誰かの仕組んだドッキリではないかと

辺りを見回したらきょろきょろするなと怒られた。

「あの、それは本当なのですか。」

「私が嘘を言うとでも。」

 神の青い瞳がじっと見つめ返してくる。

「い、いいえ。滅相もございません。」

 あの目に見つめられたらなんだかおかしくなってしまいそうだ。胸がどきどきする。

「行ってくれるか。」

「はい、よろこんで。」

 人が変わるとはこういうことを言うのだろうか。神に会った途端いつもの自分が変わってしまった。な

んかいつもの自分でいることが恥ずかしいことのように思えてきた。神の周りにいる女神たちの美しさ

は眩しいほどだ。そんな中に今自分はいる。

「そう緊張するな。」

「はい、でも。」

 ばれていたようだ。

「私はお前が元気で真面目なやつだというのを聞いてこの任務を任そうと思ったのだぞ。そんな調子で

はやはり別のものに。」

「大丈夫です。」

 思わず大きな声を出してしまった。

「あ・・・すみません。」

「よいよい。それがお前の本当の姿ということだな。頼りにしているぞ。」

「はい・・・。」

返事に力がこもらない。

「ふっ。」

 不意に神の笑い声が聞こえた。顔を上げようとするとそのまま抱きしめられた。神はメリルより20セン

チは高いはずだ。さらに今メリルはひざまずいているので簡単に胸元に引き寄せられる。

「頼んだぞ。メリル。」

「はい。」

 頭がぐるぐるしていて、ただ頷くことしか出来なかった。

「・・ル。・・・・・・・リ・・・・。」

 遠くで声が聞こえる。

「・・・・リル。・・・・・メ・・・ル・・・。」

 誰?・・・神様・・・?

「・・・メリル。起きなさい。・・・・らないんですか。・・・。」

 ちがう。これは。

「メリル。別に食べないならいいですけど。というかそのほうが食費が浮いて助かるんですけど。」

「食べる。」

「ああ、そうですか。」

 この声の主は。

「嫌そうね。」

「別にそんなことはありませんよ。」

 今の居候先で。

「嘘。さっきの台詞聞こえてたわよ。」

「・・・。」

 『向日葵』の持ち主で。

「何で無言で去っていくの。」

「さあ、ハデルもご飯ですよ。」

 なぜか私(とハデル)に優しくしてくれて。

「あんたどこ行ってたの。」

「・・・どこにも行ってない。」

 いつも笑ってる。

「は?でもいなかったじゃない。」

「・・・押入れの中で寝てた。」

 不思議な奴。

「あっそ。」

「ほら、食べるんでしょ、二人とも。」

「あたりまえでしょ。」

「・・・食べる。」

「じゃあ早く来なさい。冷めちゃいますよ。」

「はーい。」

 とりあえず今は、この暮らしが嫌いではない。だから仕方なく待つことにする。神様がやってきてくれ

る日を。